第20回カンボジア通信

このテキストは、6代工藤先輩が「カンボジア通信」として、 月1回発刊しているものをいただいて許可を得て転載しております。 今回は2005年4月号の転載です。

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「カンボジア通信 April 2, 2005」

1. 合気道活動報告
3月20日~25日の6日間、合気道幸徳会、富士通合気道部の中野秀一5段(法政大学合気道部OB)がプノンペンに滞在されました。
短い滞在の間に6回の稽古指導をお願いしました。23日(水)と24日(木)の2回はオープンしたばかりのアーク・トゥール・クラサング道場での12~13歳の少年を中心とする稽古でしたが、彼の指導ぶりがとても印象に残りました。中野さんは、川崎の幸徳会の稽古で多くの少年、少女たちを指導しており、準備体操なども子供向けに工夫していて、小さい子供を教えた経験に乏しい私にはとても参考になり助かりました。
また、25日は帰国当日にも拘わらず午前中に床の修理がほぼ完了したプレック・アンチャン道場での記念すべき稽古再開の初指導をお願いしました。
久しぶりの稽古で高校生を中心とするメンバーは、熱心に中野さんの指導を受けていました。
なお、プレック・アンチャン道場につきましては、この程、アークより道場に関するすべての権利をカンボジア合気道クラブ(CAC)へ委譲してもらうことになりました。今後については、道場を運営していく上での一切の責任をCACが負うことで、高校生たちも安心して稽古を続けていくことが可能となりました。
アーク、北條代表をはじめ会員の皆様のご配慮、ご支援に心より感謝申し上げます。
中野さんは、バクセイ・チャムクロング・クラブ道場とバサック道場でも指導されて、CAC4道場すべてで稽古指導された初めての指導者となりました。稽古中心の滞在となり、こちらの生徒たちには貴重な経験となりましたが、たいしたおもてなしも出きぬまま帰国され、誠に申し訳なく思っております。
私たちの活動ぶりが度々、テレビや新聞、雑誌などで紹介されるせいか、変わった依頼を受けることもあります。

この程、Lycee francais Rene Descartes (aefe) というフランス系の学校の先生3名が稽古見学に見えました。合気道の剣と杖の形をみたいとの希望で、お見せしました。話しを伺うと、生徒9名が演じる「星の王子様」のショーの中で、先端にライトをつけたスティックを使う場面に合気道の杖の動きを取り入れたいので指導してほしいとの依頼でした。
合気道の稽古ではないので、戸惑いましたが3月31日から6月9日の最終リハーサルまでの7回、杖の動きを使った振り付けで協力することにしました。協力後に、CACへわずかですが寄付してくれるそうで、ラブート氏らのクラブ運営資金の助けにはなるようです。

3月31日午後に、ラブート氏の長男チェミニト君を助手に第一回目のリハーサルを行いました。足さばきと簡単な杖の形を練習しましたが、6~7歳の男の子9名は右も左もバラバラで、揃ったパフォーマンスにするのはかなり難しそうで、どうなりますやら予想がつきません。好奇心からとはいえ、安請け合いし心配の種を抱え込んでしまったかもしれません。
2003年12月以来、熱心に稽古されてきたJICA専門家の小林隆信さん(3級)が3月30日に2年9ヶ月の任期を全うされて、息子の平延君(4級)ら家族と共に帰国されました。

帰国後は埼玉に住む家族と離れ、香川県の農水省関連の役所に勤務されますので、合気道丸亀道場で稽古を続けたいと申しておりました。CACを物心両面から力強く支えてくれました。本当に有難うございました。 
本省での会議出席などで上京することも多いそうで、私が審査した3級の免状を持参して本部道場を訪ねるよう勧めておきました。その際は、会員登録、正式の免状交付などご手配下さいますよう本部道場の皆様よろしくお願い致します。  
  

2.カンボジア・トピックス

・家族カンボジア初訪問
3月3日~11日の9日間、妻と息子、娘の3名が初めてカンボジアを訪れました。
JICAではシニアボランティアが、勉学のため日本へ残している子女を学校休暇期間等を利用して任地に一時呼寄せした場合に航空料金の一部が支給されるという「子女一時呼寄せ制度」があります。息子、娘とも大学生で、この制度を利用した訪問ができました。
滞在期間中は私の仕事場の一つであるバクセイ・チャムクロング・クラブ道場での稽古見学をはじめとして、週末を利用してアンコールワット遺跡とシアヌークビルに案内しました。トンレサップ湖では水上家屋で漁業を営みながら生活している人々の暮らし振りなどが珍しかったようです。
例年に比べて気温も低めで、朝晩は20度前後で推移していたようで、たいした汗をかくこともなく遺跡めぐりができました。
日本にいればこの時期花粉症に苦しめられる妻は、炊事、洗濯の主婦業からも開放されて快適に過ごせたようで何よりでした。

ただし、私にとっての唯一の誤算が、シアヌークビルのホテルカジノで発生しました。会社員時代のラスベガスやロンドンのカジノでの経験から賭け事は決して儲からないということを教えるために息子、娘にそれぞれ50ドルを渡し、遊ばせたのですが、ビギナーズラックなのか日本のゲームセンターで鍛えているためか分りませんが、息子、娘ともわずかですが勝ってしまい、せっかくの親心は逆効果となってしまいました。
まあ、こちらの人々のつつましい暮らしぶりを垣間見てくれただけでも良かったかなと親としては自己満足せざるを得ませんでした。
  

・カンボジア軍:スーダンでの国連平和維持活動へ初派遣
この程、カンボジア政府は紛争地域のスーダンへ軍隊を派遣し、国連の平和維持活動に協力すると発表しました。
当初、隊長と隊長補佐からなる将校15名を派遣し、次いで135名の兵士を英語力、健康状態、政治への中立性などの面から厳しく選抜し、派遣する予定です。すでに選抜されている将校たちは、1993年に国連暫定統治機構の機関で仕事をした経験者が殆どです。
フンセン首相は、国連の要請があれば1,000名までは世界中どこにでも派遣する用意があると表明しました。しかし、この国に派遣費用を負担するだけの予算がないため、すべての費用は国連が負担することになります。カンボジアも長い紛争の時から10年を経過して、やっと他国の紛争地域での手伝いが出きるようになりました。
日本では自衛隊のイラク派遣について議論が続いていますが、この国の人々にとって自国の軍隊が他国の平和のために活動できるということは、自らの国の平和を象徴する出来事といえるでしょう。この事実の重みは、これまでのこの国の過酷な歴史を振り返ると、我々日本人とは比べ物にならないだろうと言わざるを得ません。 

・中学校進学率低迷続く
教育省は小学校から中学校への登録料を無料としているにも拘わらず、進学を諦める生徒の数が増え続けていると発表しました。
この背景には、貧困と先生へ支払う非公式の授業料の存在があるそうです。
教員組合によると、昨年は35%の生徒が勉強を続けることができなくなり、この比率は2003年より5%悪化しました。これらの生徒たちは家計を助けるために仕事を始めざるを得なかった子供が大半で、また、低給与の教師たちが小遣いかせぎのため、不当な費用負担を生徒の親に強いることが学業継続を更に困難にさせている要因と思われます。。
特に、地方における学校建設の遅れと教員不足が深刻で、都会においてすら一クラスに100名以上の生徒という学校も多く、大きな問題となっています。
世界銀行や各国のNGOが資金を提供して、学校建設などを進めていますが、政府による教育行政の運営や予算配分面でまだまだ改善すべき課題が多いようです。
教育の機会均等がかなりの程度確保されている日本においてすら、格差の固定化が問題になりつつあるとNHKテレビの特集番組で報じていました。
しかし、カンボジアでは「教育の機会均等」という言葉すら聞くことが少ないのではないでしょうか。
貧富の格差が更に拡大し、社会不安を増幅させない為にも、せめて小学校と中学校教育だけでも子供たちがきちんと受けることができるようにして欲しいものです。  
    
カンボジア合気道クラブ
                  工 藤  剛