第10回カンボジア通信
このテキストは、6代工藤先輩が「カンボジア通信」として、
月1回発刊しているものをいただいて許可を得て転載しております。
今回は2004年4月号の転載です。
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「カンボジア通信 April 4, 2004」
1. 日常生活 - クメールお役所仕事
日本では景気回復が確実なものとなりつつあるなかで、新入社員や新入生が街にあふれ、昨年よりは明るい新年度入りを迎えたことと思います。
こちらも、4月はクメール正月(13日~15日)の季節です。4月入りと共に正月を迎える準備が始まり、休みを利用してシエムリアップや各州へ出かけるメンバーも多く、なんとなく慌ただしい雰囲気になります。私は15日よりハノイでの合気道演武大会&セミナーに参加し、東南アジア地域から集まる道友と共に正月を迎える予定です。
ところで、ハノイへ同行するクメール人2名のパスポートとビザの手配をしているところですが、この国の役所とかかわる度にいやな思いをすることになります。クメール人が通常パスポートを取得するには、2~4ヶ月分の給料に相当する100ドル位かかるそうで、パスポートを保有する人は稀です。今回は、ベトナムの日本センター(VJCC)主催の文化交流行事ということで、VJCCの招請状をつけてパスポートを申請しております。VJCCの公式行事への参加ということで、パスポートの無料取得が認められるからです。ところが、この手続きを進める過程で申請書類に何人かのサインを貰う際に、それぞれUnder-the-Table Fees(非公式の手数料、賄賂?)を要求されるのが常です。無料のはずが各パスポート毎に35ドルと領収書なしの経費が発生してしまいます。
我々にとってこの領収書の出ない支出が困ります。生徒へ負担させる訳にもいかず、結局、自分のポケットから出すしか処理の方法がないからです。
この国では、賄賂や収賄で逮捕されたとか罰せられたという話しを聞いたことがなく、中央官庁から地方行政組織に至るまで、このようなことは日常茶飯事のことのようです。
あるフランスの調査機関の調べでは、輸入品の通関の際の査定額を極端に低く見積もり便宜を図る為に、本来、国家歳入として納められるべき税金の28%が失われていると報道されていました。車の数も年々増え、ガソリン輸入量も間違いなく増加しているにも拘わらず、ガソリン税収は逆に減少しているようです。
役人の給料が安い為に、このような事が起こるのでしょう。国に入るべき歳入をきちんと確保し、その後に給料も上げていくのが筋なのですが、長い間に慣れ親しみ、この国の隅々にまで染み付いてしまった行政慣行を良い形に変えていくことは本当に難しいことです。
毎年、カンボジアの支援グループ会議が開かれ、この国の行政システムや司法制度改革の進捗状況をチェックした上で、支援額が決められております。2001年には政府要望額500百万ドルに対して615百万ドル、2002年には635百万ドル(政府要望額485百万ドル)と決められました。これまでの会議ではいずれも、政府の改革に対する取り組みがまだまだ足りないと支援国は批判してきました。
カンボジア政府は近い内に開かれる予定の今年の支援グループ会議に対して、今後3年間に15億ドルの支援を求めるようですが、教育や健康・保健といった国民に直結するような分野へより多くの支援金が使われることが望まれます。
各国からの支援金による援助をより効果的なものとし、真に国民の生活が改善していくようにするには、このような問題の解決は避けて通れないことだと痛感させられます。
2. 合気道-昇級試験&神奈川新聞社による取材
稽古を始めて約1年半が経過しましたが、3月に昇級試験を行い、クメール人の中からも2級取得者10名が誕生しました。全員、当初より稽古を続けてきたバクセイ・チャムクロング・クラブのメンバーですが、来年には黒帯へ挑戦出来るよう頑張ってくれることでしょう。これらのメンバーが近い将来、「カンボジア合気道クラブ」の指導者として、この国における合気道普及の中心となってくれる筈です。
ちなみに、3月末現在のメンバーの昇級状況は以下の通りです。
5級 24名
4級 22名
3級 21名 (内、アーク・プレック・アンチャン高校生:14名)
2級 13名 (内、フランス人:2名、トルコ人:1名)
計 80名
今後とも、日々の基本を中心とした稽古、ラオス、タイ、ベトナム、シンガポールなどの近隣諸国との交流稽古や本部道場からの東南アジア巡回指導などを通して、更にメンバーのレベル向上を目指して参ります。皆様のご指導、ご支援をよろしくお願い致します。
3月に神奈川新聞社の高本記者がカンボジア,ラオス、ベトナムに派遣され、神奈川在住のシニア・ボランティアと専門家、青年協力隊員の取材を行いました。合気道については、3月23日にバクセイ・チャムクロング・クラブ道場での稽古取材に見えました。稽古の様子を熱心に撮影された後、カンボジア合気道クラブ代表のナング・ラブ-ト氏を交えて、約1時間インタビューを受けました。シニア・ボランティア(SV)としてカンボジアで合気道指導をすることになった経緯やこの国での合気道の現状について詳しく説明しました。
取材記事は4月中旬以降にシリーズでJICAのもとでの我々の活動状況を紹介していく予定です。神奈川在住の方で記事を目にすることがありましたら、どなたか、その記事をメールしていただくと有難いと思います。
3.緒方貞子JICA理事長による現場視察
昨年10月1日に新生「国際協力機構」の初代理事長に就任された緒方さんが、JICA事業の視察とカンボジア側関係者との協議を行う為に、カンボジアを訪れました。緒方理事長は就任以来、JICA本部から現場への派遣を推進され、現場中心主義を強く打ち出されております。
現場視察の皮切りにカンボジア,ベトナムを選ばれたそうです。カンボジアでは、フンセン首相、各省大臣との協議のかたわら、地雷の事故が一番多いバッタンバン州の地雷処理現場を始め、プノムペン港のインフラ状況の視察、更に専門家、SV,協力隊員が活動している病院や孤児院などの視察を勢力的にこなされました。
その行動ぶりは、76歳のお年を微塵も感じさせないもので、これまでの紛争地域各地での活躍ぶりもさも有りなんと現場で働く皆が感じたと思います。
我々との懇談の機会も作っていただき、身近に理事長の謦咳に接することができました。私は簡単に自己紹介で済ませたのですが、同じテーブルのSV仲間で仕事が思うように進まないと悩みを訴える方までいて、時間オーバーで最後のテーブルまで回れなかったほどでした。
「物事が進みにくい国に来られて、苦労されていますね。」と慰めの言葉を残されて、懇親会場を後にされました。日本帰国後すぐにアフガニスタンを訪問されるとのことで、
その後のベルリンでのアフガニスタン支援国会議で4億ドル追加支援発表をされる姿がテレビニュースで報じられていました。気さくに話し合いに応じてくれましたが、国際会議の重要な場で通用する数少ない日本人の一人にお会いできるという良い機会に恵まれました。
カンボジア合気道クラブ 工藤 剛