第17回カンボジア通信

このテキストは、6代工藤先輩が「カンボジア通信」として、 月1回発刊しているものをいただいて許可を得て転載しております。 今回は2005年1月号の転載です。
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「カンボジア通信 January 1, 2005」

1.植芝吉祥丸二代合気道道主7回忌に寄せて

新年の1月4日は、二代道主の7回忌とうかがい時の流れの早さをしみじみと感じます。
平成10年の終わりと平成11年の新年を迎える恒例の越年稽古は、いつも通りに実施されるかどうか気をもみながら自宅で新年を迎える準備をしていたことを思い出します。
結局、越年稽古はいつも通り無事行われましたが、稽古終了後の直会は二代道主の病状を気遣いながら静かに早く終了したように記憶しております。  

現道主のお別れの言葉にもありましたが、二代道主は越年稽古と正月三ヶ日を強靭な意志で乗り切られ、4日に逝去されました。
我々が越年稽古を済ませ、新年を何ごともなく平穏に迎えることができるようにとの二代道主のご配慮をあらためて知り、胸が一杯になりました。

私はこの時の新年の鏡開きで6段位への昇段推薦を受けることになっておりましたが、鏡開きは急遽取りやめとなりました。我々に与えられる昇段免状も新道主のお名前によるものが新たに用意され、日を改めて平成11年1月20日付けの免状が本部道場にて授与されました。現道主による初めての昇段免状授与式となり、学生時代に開祖より初段に列せられて以来、二代道主、現道主と3代にわたって合気道との縁をつなぐことができ、この面からも思い出に残る新年となりました。

昨年、「秋の園遊会」へ道主ご夫妻がお揃いで招待され、またそれが合気道の民間外交への貢献が認められての招待とのことで、JICAを通じて海外で活動する我々にとっても嬉しい限りです。

海外普及に先鞭をつけられた二代道主の思いにいささかでも沿えるよう今後とも活動を続けていくことで悔いのない生き方ができれば、これに勝る喜びはないとの思いを二代道主を偲びつつ強めております。

    
2.国際松涛館空手道連盟 金澤弘和館長来カ

このほど、国際松涛館空手道連盟(SKIF)の金澤弘和館長と村上6段が初めてカンボジアを訪問され、第一回国際松涛館空手道協議会が開催されました。
12月8日?9日の2日間、パナサストラ大学を会場にパナサストラ大学スポーツアソシェーションの生徒による松涛館空手型の演武と金澤館長によるセミナーが行われました。

この際、「カンボジア合気道クラブ」もカンボジアの古武道と共に演武を披露するよう招請され、参加しました。平日の午前中の為、3道場よりメンバーを選抜し以下の内容で演武を行いました。

・.レス・ジャルディンス・ドゥ・バサック道場及びアーク・プレック・アンチャン道場メンバーによる固め技の演武
・.バクセイ・チャムクロング・クラブ道場メンバーによる投げ技の演武

最後は私の自由技演武で締めました。与えられた時間は15分でしたが、テレビ各局による全国放映もあって合気道にとっても良い宣伝になったと思います。

金澤館長は1931年生れで73歳になられたそうですが、1957年、1958年連続で日本空手協会(JKA)の全日本選手権組み手チャンピオンとなられた後、1977年に現在の「国際松涛館空手道連盟」を設立されました。その後も、SKIFの世界大会を世界各国で主催するなど活躍されております。

寒い日本から27度?28度と日本でいえば真夏日のプノンペンにこられ、お疲れのようでしたが、我々が稽古しているバクセイ・チャムクロング・クラブ道場にも来られて、空手メンバーを指導するなどのスケジュールをこなされて、無事日本へ帰国されました。

3.合気道活動報告

私がカンボジアに赴任して以来、私から初めて昇級免状を受けた生徒の数が12月に丁度100名となりました。すでに5級、4級を取得していたフランス人、トルコ人の3名以外はすべて初めて5級を取得した者の数です。

5級取得後に途中で来れなくなった生徒も数多くいますが、特に、女子生徒の場合、自分では続けたい気持ちが強いのに、親から仕事の手伝いを求められて止めざるを得ない生徒も多く、すべて家中心で日本の生徒のように自分の好きなことを好きなように出来る状況にはないようです。

平成14年11月の稽古開始以来、2年1ヶ月が経過しましたが、平成16年12月末現在の生徒たちの昇級状況は以下の通りです。この内、7名は週4?5回の稽古を続けております。

      1級   12名(内、クメール人 9名、フランス人 1名、トルコ人 2名)
      2級   15名
      3級   12名
      4級   26名
      5級   35名
      合計  100名

来年1月からは「アーク・トゥール・クラサング道場」も加わって道場も四つとなり、新しい生徒も増えて忙しくなりそうです。

これまでの2年間は徒に生徒の数を増やすことよりもクメール人のしっかりとした指導者を養成することに主眼を置いてきました。新しい道場のスタートに合わせて初心者指導を彼らに担当させ、更に指導者に相応しい技と資質を高めるようにしていきたいと思います。

年末年始はバンコクに滞在し、深草先生の練武館道場での越年稽古に参加しました。Mr.Freddy 率いるシンガポール合気道協会のメンバー12名他ラオスの松長さん、ハノイのVJCC SHUDOKAN 要田さんなども参集し、本部道場と2時間遅れの越年稽古で昨年同様に心地よい汗を流すことができました。

横須賀の合気会支部道場春陽会の服部夫妻も参加され、服部さん、工藤がそれぞれ20分指導し、最後を深草先生が締められて新年を無事迎えることができました。

稽古後の新年を迎えての直会もタイ人、シンガポール人、日本人に西欧人といつも通りに国際色豊かです。国籍、人種、性別などすべての垣根がどこかに飛んでいってしまい、まさに合気道ファミリーが形成されます。これこそが練武館道場での越年稽古の醍醐味なのでしょう。道友の皆様もチェンマイ観光を兼ねて、一度参加されることをおすすめします。

おりしも、プーケット、ピピ島、クラビなどタイの海岸リゾート地の災害状況をタイのテレビニュースで見ましたが、泥まみれの数知れない遺体やすっかり姿を変えてしまった海岸線などすべて想像を絶する惨状に息を呑まざるをえません。

日本人観光客も日本の新聞で報道されている以上の方々が災害に巻き込まれているようで、最終的に何人が犠牲となっているのかはっきりしておりません。新年を目の前に亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

4.カンボジア・トピックス

・ 幼児死亡率に改善みられず

国連子供基金の「世界の子供たちの健康調査」によると、カンボジアにおける5歳以下の幼児死亡率が1990年の1,000名当り115名から2003年には 1,000名当り140名へ悪化したと報告されています。

この数字は正確さに欠けるとユニセフのカンボジア代表は指摘していますが、隣国ベトナムの1,000名当り23名と比べても、カンボジアが東アジアのなかでは最悪の状況にあることは間違いないようです。

多くのアジアの国では生活レベルの改善、情報通信の発達、病気治療方法の進歩、予防注射の普及などにより幼児死亡率は急速に減少してきました。 

ところが、この国では依然として予算不足のために医療サービスのあらゆる面で遅れがみられ問題となっております。特に、緊急の課題となっているのが安全な水、学校、予防注射の利用が子供たちにとって充分でないことです。

合気道仲間で水資源・気象省でアドバイザーをしているJICA専門家の小林さんによると、プノンペン市内の水道の水は飲めるそうです(まだ私は試したことはありませんが、屋台のバケツの水で洗ったグラスで氷入りサトウキビジュースをおいしいと飲み干し、翌日なんともなかった花本嬢ならオット パンニャハ テー!!! 多分、水道の水で洗った果物でお腹をこわした照井さんにはとてもお勧めできません)。

但し、安全な飲み水を利用できるのは国民全体の34%、上下水道にいたっては16%にすぎません。ちょっと郊外に出ただけで、雨水を貯めておくための大きな水がめをすべての家々で目にしますので、池の水なども利用する地方での生活ぶりが想像できるかと思います。

予防注射のお陰で、はしかで死亡する子供の数は減りつつあるようですが、この国の子供の45%は栄養失調にあり、まだまだかなりの子供たちが貧困のなかで生活していることが分ります。また、小学校に入学した子供のうち6年生を終えることの出きる子供が、特に女子の場合は半分以下ということも、このような状況を反映していると思います。

World Vision, USAID など多くのNGOが保健省と共に活動を続けていますが、HIV/AIDS対策への予算と比べると、「子供救済計画」へ提供される資金はかなり少なめです。

資金の提供に加えて、保健省とNGOの連携を更に強めていくための戦略を明確にすべきとの保健省国立子供健康センター医者の指摘も今後の進展には欠かせないものです。

            カンボジア合気道クラブ    工 藤  剛