第13回カンボジア通信

このテキストは、6代工藤先輩が「カンボジア通信」として、
月1回発刊しているものをいただいて許可を得て転載しております。

今回は2004年8月号の転載です。
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「カンボジア通信 August 6, 2004」

1. 与党人民党(CPP)と野党フンシンペック党との連立政府樹立なる

昨年7月27日の総選挙以降約1年もの間混迷を続けてきた新政府の樹立が、7月15日の国民議会にて極めて異例な形で組閣を完了し決着をみました。
新政府樹立に向けて両党間で政策綱領の擦り合わせが行われてきましたが、最後に残されていた議席配分についても新政府の役職を89も増やし170とすることで合意し、首相をフンセン氏、国民議会議長をラナリット殿下とすることで新政府樹立にこぎつけました。

この過程で、フンセン首相とラナリット殿下合意により提出された「一括投票」を可能にするための法案が憲法に違反するのではと議論になりました。「一括投票」とは、国民議会議長、副議長等国会首脳部の決定と新政府新任を一つのパッケージとして一括して承認するためのものですが、本来であれば国民議会議長等決定後に新政府の新任が行なわれます。

しかし、上院を通過した同法案への署名をピョンヤンで病気療養中のシアヌーク国王が拒否し、国王不在時に国家元首代行を務めるチアシム上院議長(CPP党首)に委ねました。ところが、チアシム氏はかねてより国王への忠誠心が強い政治家として知られており、7月13日早朝病気療養のためと称してバンコクの病院へ入院しようとしました。この動きを察知してかフンセン首相と姻戚関係にあるホックランデイ内務省国家警察長官指揮下の国家警察がチアシム邸を包囲するという事件が発生しました。

結局、チアシム氏とホックランデイ氏の話し合いのあと、両氏はバンコクへ向けて出国しました。この事件の背景には、1997年の武力衝突におけるCPP対フンシンペック党という対立と異なり、CPP党内部でのチアシム党首とフンセン副党首の2大派閥による対立があるとの見方があります。人数ではチアシム派が多数(75%)を占めていますが、主要閣僚や上級官吏へのフンセン派の登用が相次ぎ、これに対するチアシム派による牽制という見方です。

フンセン首相は「一括投票」についても、チアシム党首の了解を得ており党内対立はないと、その後、退院して帰国した同党首との会談後の記者会見で強調していました。結局、同法案は上院第2副議長のニエク・ブンチャイ氏(フンシンペック党所属)が国家元首代行として署名を行ない、成立しました。
この間、野党サムランシー党は「一括投票」は憲法違反として、党首はアメリカへその他の議員もバンコクへ出国しすべての法案審議をボイコットしました。上院議員のオー・ブンロン氏一人だけ、フンシンペック党へ離脱し、新政府での閣僚の地位に留まりました。

連立政府樹立の立役者の一人となったラナリット殿下への批判も多いようで、フンセン首相と共に国王に帰国要請を出しましたが、国王は王位からの退位が承認されるまで帰国しないと表明し、カンボジアにおける民主主義の現状に強い危惧を抱いているようです。
どのような形であれ新政府が樹立されたことを経済界は歓迎しているようですが、国民の反応としては、新政府成立のプロセスに対して厳しい見方もかなりあるように感じられます。新政府にかかる経費も年間600萬ドルとこれまでに比べて急増し、カンボジア支援国の前提として行政システム、司法システムの改革が強く求められているなか、総じて支援に当たる関係国機関、人権団体、NGO等の見方も当然厳しいものとならざるを得ません。
今後の新政府による政策運営から目を離せない状況が続きます。

2. 合気道―新道場建設スタート

6月の一時帰国では新道場建設の件で、皆様から多大のご支援とご協力を賜りました。お蔭様で建設の具体化へ向けて動き出すことが出来ます。こちらの占い師が日柄も良いという7月25日を建設着工日と決め、工事を開始しました。工事の進行状況に合せて5回に分けて支払う契約とし、契約時に第一回目の支払いを済ませました。

手始めとして、地盤整備、水源の確保、プロテクションの工事から始めますが、9月末までの完成を予定しております。雨期にもかかわらず、降雨が少なく工事は順調に進みそうです。逐次、進行状況を報告させていただきます。

3. カンボジア・トピックス

・地雷、不発弾による負傷者増加
2004年1月~4月: 457名 内91名重傷
2003年1月~4月: 321名 内44名重傷
特に、バンテイ・ミンチェイ州、バッタンバン州、プサット州、コンポム・トム州での地雷、不発弾による負傷者が増加中です。負傷者の大半は現金収入を得るため回収作業を行なっている者と田畑を開墾するために森林を切り開く作業を行なう農民だそうです。

(背景) 
赤十字やNGOによる地雷・不発弾事故防止キャンペーンにも拘わらず、村人たちが金属探知機を使い危険な回収作業を続けている背景に、メタルのスクラップ価格の高騰があります。現在、その価格は1kg当たり700リエル(20円位)で昨年同期に比べて200リエルも値上がりしています。
回収業者に持ちこまれたスクラップは、タイで最終製品に加工されアメリカへ輸出されていますが、景気回復でその需要は増加中とのことです。回収業者はそのままの形で引き取ることはない為に、村人が自ら分解するケースが多いようです。結局、自らの生命を賭して現金収入を得る為の仕事をしているというのが実情です。
カンボジア・マイン・アクション委員会の調査では、1990年代初めから活動してきたなかで今年が負傷者の数も最悪の年になりそうと報告しています。貧困故の危険な作業をいとわない人々の生活が地方にいけばまだまだあるようで、子供のころ幼友達と米軍の射撃場で弾を拾った遠い記憶がかすかに脳裏をよぎりました。

・魚価の値上がり食卓を直撃
魚の産卵時期にあたる6月1日から9月30日までは漁獲の禁止期間となっていて、この時期の魚の値段は通常高くなります。
ところが、今年は値上がり幅が例年以上で庶民の食卓に少なからず影響を与えております。ナマズは7月に入って1kg当たり1.25ドルから1.49ドルへ値上がりし、魚全体では平均で13%も値上がりしています。漁師たちは自分の家へ持ちかえる分もすべて市場へ運び、販売に精を出しているとのことです。
この背景にはメコン河の水量が極端に低下していることがありますが、降雨量の減少、上流での中国によるダムの建設、近隣国への魚輸出の増加や違法な爆薬を使用した漁など多くの原因が絡み合っているようです。
今年も雨期たけなわの時期にも拘わらず雨が少なく、来年の漁獲量についても今から心配されます。

カンボジア合気道クラブ         工 藤  剛